万博大学が始まった。初回は宇宙飛行士毛利さんの講演だ。
毛利さんはもともとは材料やエネルギーを研究する仕事をしていたのだが、宇宙飛行士になり、宇宙から地球を見て生命や社会について考えるようになったそうだ。「地球はまほろば」つまり「たった一つの帰るところ」である。その思いを共有するには、我々もまず地球から離れて宇宙から地球を見てみなければならない。スクリーンにはまず30キロ上空から見た愛知県が映し出された。三河湾が上、つまり南が上であるが、宇宙から見れば南も北もない。次は300キロ上空。スペースシャトルの窓だと、その幅に丁度九州から北海道までが入るという。さらに13000キロつまり地球一つ分離れてみる。地球全体が見える。そして月面から見た地球。月の地平線に地球が沈むアポロ8号からの映像を見て、「宇宙船地球号」という概念が生まれた。1969年、毛利さん20歳の時だ。
そして人類の挑戦は火星へと進む。一昨年、300万年ぶりに火星が大接近するのに合わせ、各国が火星に向けてロケットを打ち上げた。が、成功したのはNASAのみ。火星探索ロボットはSpiritとOpportunityの2機だが、現在でも火星表面で活躍している。彼らが火星に降りたって働き出すまでのCGがスクリーンに映された。アメリカの高校生の作品だが、非常によくできている。アニメーションは着陸船が切り離されるところからスタートする。火星の薄い大気との摩擦熱で熱くなり、パラシュートが開き、さらにはゴムまりの集合体のような緩衝材が放り出されてバウンドを繰り返した後、着陸船は安全に着地する。中からは探索機のシェル。羽のようにぱたぱたと自分で展開し、目となるセンサーを自分で持ち上げ、自走して火星表面に降りる。何しろ火星から地球へは電波でも往復20分かかる。いちいち次の指示を待っていたのでは働けないので、ロボットが自分で考えて行動できるように作ってある。エネルギー源は太陽電池だ。地面(地球ではないので火面とでも言うのでしょうかと毛利さんは言っていたが)の岩に当たらないように上手に進んだあと、岩石を削ってサンプリングするところまでが描かれていた。続いてロボットが撮影した画像となるが、CGとほとんど見分けがつかないほどである。(CGは編集したものをアメリカ館で上映中。探索ロボットのレプリカもある。)火星探索ロボットは、いまは火星上での生命の探索を行っているが、期待できるのはバクテリア程度の下等生物だという。また、岩石を分析した結果、水が存在した証拠である硫酸塩が存在しているという。
火星での日没は、空が赤くならない。大気が二酸化炭素であるため、日没の空は青い。
太陽は、エネルギーの塊である。爆発を繰り返す、怖いくらいの存在だ。しかし地球では、太陽は「生命を育むもの」である。これは地球に大気と水があること、さらに金属でできたコアが回転することによって発生する磁場が太陽からの有害物質(プラズマ)をカットしているためである。
ここで毛利さんは提案する。
地球環境意識の拡大
+30km → +1億5000万km
成層圏 → 太陽系
地球表面
深海−10km → 内部コア −6500km
この提案は長久手日本館にも展示があるそうだ。
テーマは次に移る。科学はめざましく進歩しているように見えるが、実は生命と宇宙の係わりについての研究は相当遅れている。スクリーンには再び、宇宙空間から見た地球が映し出される。
地球表面にはたくさんの人間がひしめいているが、実は宇宙からはその姿は見えない。もし宇宙人が宇宙から地球を見たとしても、人間がいることは気づかないだろう。宇宙から確認できる地球の生命は、陸では森林、海ではサンゴだけである。しかし夜の側で地球を見ると、たくさんの光が見える。光は人間が出している。そして光はネットワークを形成しているように見える。なぜ今、ネットワークが必要か、それを考えてみよう。
私たちは今科学技術によって
・宇宙から地球全体を見られるようになった
・生命のもと(ゲノム)がわかった
その結果
・すべての生命はつながっていることがわかった
今新しい時代を生きている (太字はスライド)
DNAの組み合わせで別の生物になることがわかった、つまり生命はすべてつながりを持っているのである。
生命はどのようにつながってきたか
・多様化
・個の新しい挑戦
生きることの意味
・個として生きる 〜100年
・日本人 〜2000年
・人類 〜200万年
・地球生命として 〜40億年
生きる喜びとは
・生き残れる可能性が高まる
→病気を克服するとうれしい 能力が高まるとうれしい
・次世代につなげること
→赤ちゃんが生まれるとうれしい 子供が成長するとうれしい
では、なぜ個人と関係のないイチローや松井が活躍してもうれしいのか。あるいは世界新記録が出るとなぜうれしいのか。それは、日本人の能力が高まったこと、人類の能力が高まったことがうれしいのである。能力が高まることは、生きのびる可能性が高まることである。
個の挑戦と全体とのつながり
人間を含む生命体の流れ
全体の貢献
誰もが期待されている
・環境と個性の適合で個が突然力を発揮する
それにより種全体のレベルが上がる
・誰でも皆DNAの組み合わせが違う
誰もがチャンスがある
それに挑戦することが最高の喜び
未来へ生命のつながりに貢献
個をのばすことは全体の能力が上がることにつながる。一人一人が多様な分野で挑戦することで社会全体のレベルが上がる。行き詰まっているから本能的にネットワークで地球を守ろうとしているのである。力を合わせ、未来に向けて生き延びることで地球を守っていかねばならない。
質疑応答で、火星に人が住む時代になるだろうかという質問に対し、毛利さんは大いに可能性があると答えた。火星の地下には大量の氷があるらしいし、二酸化炭素を利用して温暖化を図ることもできるかもしれない。火星に向かうのも、生きのびるためである。
※毛利さんが館長を務める日本科学未来館のHPはこちら