21世紀★万博大学
本文へジャンプ 7月9日 

  

第9回講義

「リニモに賭けた夢」

藤野 政明氏

今回の講師は中部HSST開発社長の藤野政明氏。スタートから現在まで企業人というところがいままでの講師とは異なる。それは丁寧な語尾にも表れていたが、語り口のスピードに、にわかに購入したボールペンがついてゆけず、今回のノートは再現度が低いのをあらかじめお断りする。
リニモのしくみと開発の歩み
 30年リニモの開発に携わってきた身として、今日は最高の場所で発表ができてうれしく思います。
 リニモは、常電導磁気浮上式リニアモーターカーです。磁気で浮上して走るので、騒音や振動が少なく、都市に優しい乗り物です。交通システムとしてはHSST(Hi Speed Surface Transport)といいます。リニモは世界で2つめのHSSTで、都市交通としては唯一のHSSTです。
 HSSTはJRさんのリニアと混同されがちですが、最高速度、浮上高さなどに違いがあります。最高速はHSSTが時速100km、JRマグレブとトランスラピッドは時速300kmです。浮上の高さはHSSTが0.8cm、JRマグレブは10cmです。
 HSSTの特徴をまとめると、時速100km程度の都市交通システム、騒音や振動が少なく環境に優しいシステム、常電導吸引式の実績あるシステム、ということになります。

 開発の経緯は、日本航空が空港への交通手段として開発を始めたのが1972年ですが、挫折。その後は博覧会で進められ、85年のつくば博、87年の岡崎葵博にも登場しました。89年に中部エイチ・エス・エス・ティ開発が設立され本格的な開発がスタート、93年には運輸省の認可がおりました。
※このあたりは自治体ドットコムに詳しい。
HSST浮上・推進のしくみ
 HSSTは基本的には道路に橋脚を立てて走らせるので、特別な用地買収は必要ありません。車両の下にはモジュールと呼ばれるものがついていますが、ここに電磁石が入っています。レールは鉄でできており、磁石ではありません。電磁石に電流が流れるとレールに向かって引き寄せられ車体が浮きます。電磁石とレールの距離は8ミリですが、電磁石についているギャップセンサーにより距離を調整しています。ギャップセンサーには制御ユニットが接続されており、1秒間に4000回電流を調整しています。
※このあたりは愛知高速交通株式会社のHPに図があるので参照していただきたい。
 カーブでは遠心力が働くので左右のずれも2ミリ程度生じます。普通の列車では車輪にフリンジがついているのでずれることはないのですが、HSSTでは案内力によってずれを解消しています。
 浮上によるメリットをまとめます。
1 レールの接触がないため、騒音や振動が少ない。 電車の騒音は、一部風切音もありますが、ほとんどが接触による音です。
2 摩擦による抵抗(損失)が少ない。 リニモは1両17トンくらいですが、3両つないでも人1人で押して動くくらいです。
3 摩耗する部分がほとんどないため、保守(メンテナンス)が容易である。 鉄道の維持費のかなりの部分がレールにかかっています。鉄のレールは10年±5年で交換しなければなりませんが、HSSTはレールが減りません。
 次にどうやって走るかですが、リニアモーターで推進します。リニアモーターとは、回転モーターを平面にのばしたものです。回転モーターは固定子(コイル)と回転子(アルミ円筒)でできており、コイルに交流電流を流すことによってNSが交互に反転して回転子が回ります。リニアモーターは車両側にコイルがあり、回転子の代わりにリアクションプレートをかぶせたレールとなっています。
※このあたりの図と説明は愛知高速交通株式会社のHPを見てください。
 リニアモーターによる推進のメリットをまとめます。
1 天候などによる路面状況の変化に左右されず、急な勾配にも強い。 少しの雪なら平常通り運行できます。
2 占有スペースを小さくすることができる。
3 摩耗部分がないためメンテナンスが容易。
 吸引浮上と反発浮上ですが、HSSTは吸引浮上で、収束する力をコントロールします。JRのリニアは反発浮上です。超伝導リニアの浮上のしくみをもう少し詳しく見ると、吸引力と反発力を両方使っています。また推進は、線路側に電流を流して磁場を作っています。
※このあたりはJR東海リニアエクスプレスのHPに詳しい。講義中に使用されたのも同じ図である。

大江実験線から東部丘陵線へ】
 大江実験線で使ったHSSTには2種類の車両があります。HSST−100Sと100Lです。100Sは長さ8.5m、幅2.6m、高さ3.4m、車重11トン(満車時15トン)で乗車定員67人。6個のモジュールを持ち、半径25mのカーブを回れました。100Lは長さ14m、定員110名、10個のモジュールを持ち、リニモの原型となりました。
 大江実験線は大江から東名古屋港まで1.5キロの線路ですが、急曲線である25R、100R、急勾配の60‰、70‰、分岐装置を持ち、ジェットコースターのようだと評されていました。ここでの走行実績は100S100L合わせて12万キロ、42000人が試乗しました。
※このあたりは中部HSST(株)のHPに画像あり。
※講義ではここで「夢ののりもの CHSST」のビデオを見る。HSSTの開発史と大江実験線での実験概要を見る。


 東部丘陵線に使用する車両は3機種が検討されましたが、急勾配や環境面を考えてHSSTが選ばれました。藤が丘から八草まで9.2キロ、営業距離は8.9キロを15分で結びます。高架ですが、道路幅の狭い1.3キロの区間は地下です。総事業費は1000億円、内インフラ部に600億円かかりました。輸送量は1時間3500人、1日3万人ですが、いまは1時間に5000人、1日に100万人運んでいます。
※事業の経緯等は愛知高速交通(株)のHPを参照されたい。
 愛知高速交通は第3セクターですから神田知事が社長です。(→概要)軌道上にはシーサスクロスという分岐が2カ所、三枝分岐が1カ所あります。三枝分岐の先は車両基地で、夜は全車両が入庫します。高架の形式は3タイプあります。橋脚が道路の中央にあるのが基本パターンですが、道路の片側にあるもの、道路をまたぐ形の橋脚もあります。駅の基本構造は3階建てです。地下区間はめがねシールドという工法で作られており、幅が12mで収められています。
 車両のデザインは愛芸大でまとめられました。100Lとは、正面をガラス張りにし、鋭角的なデザインとなりました。車体の小ささを感じさせない内部デザインです。運転席には手動の装置がありますが、普段は使いません。100Lで使われていなかったATO(自動列車運転装置)とATC(自動列車制御装置)がリニモには使われています。先行車両は豊川の日本車輌で作られ、大江実験線で実験に使われました。
 リニモのランカーブはこんなぐあいです。
縦軸は速度、横軸は距離で、駅から駅までの走行を表しています。一番高いところは時速80キロです。これ以上のスピードが出ないように、線路に電気的な網が張ってあります。リニモの駅ではホームにもドアがありますから列車のドアがずれて止まらないよう、駅の手前付近に4カ所のポイントが設けてあり、誤差が30センチ以内に収まるようにしています。リニモは無人ですが安全性の高いシステムを構築しています。
 車両基地は万博会場の東端にあり、広さは3万平方メートル。検査、保守、修理、洗車ができます。リニモは車庫にはいるまで自動運転です。
 車両編成は01から09までの9編成。それぞれが3両です。08までは愛知高速交通のものですが、09は万博協会が作りました。
 いまは5分間隔で8編成が5分間隔で走っています。車両にはがんばって走ってもらって、万博が終わったらごくろうさんと言ってやりたいです。
※ここでまたビデオ。「走り始めた21世紀」というタイトルで、愛知高速交通作成のものである。リニモの快適性、乗り心地、加速性にも触れていた。
 HSSTの開発から30年、毎日100万人の人に利用され、開発冥利に尽きません。今後は第2、第3、第4のシステムに展開していきたいと思います。今のところ打診のあるのはすべて海外です。台湾、中国、韓国から新しい都市交通として打診があります。また空港アクセスなど、高速性の要求されるシステムで時速200キロを目指したいとも思います。
質疑応答
 Q ブレーキはどうなっていますか?
A 時速40キロから数キロまでは磁石を逆にすることでブレーキをかけます。止まる直前では油圧ブレーキにより機械的にブレーキをかけます。

Q HSSTの意味をもう一度教えてください。また、消費電力は従来の電車と比べて少ないのか教えてください。
A Hi Speed Surface Transport System 、高速浮上交通機関です。
消費電力は残念ながら多分従来の電車の方が少ないです。リニアモーターの唯一の欠点は効率が悪いことなのです。電車との比較はありませんがモノレールと比較した場合、2〜3割り増しとなっています。ただし、現在は毎日超満員であること、急勾配区間があること、最高速を出していることを考えれば、万博が終わって本来的な走り方に戻ったとき大差はないのではと考えています。また、鉄道のコストに占める消費電力は全体の1,2割です。他のメンテナンスコストを含めたランニングコストでいけば確実に安いはずです。ただこれも車両のオーバーホールをしてからでないと正確には言えないでしょうが。

Q HSSTの浮上についてはギャップセンサで制御されていますが、推進の方ではどうでしょう?
A ギャップセンサはデジタル制御なので1秒に4000回のスキャンということになるわけですが、推進の方はアナログ制御です。モーターに流す電流には連続性があります。VVVFについては別です。

お断り

この講義ノートは私個人のメモと記憶に頼って書いていますので、間違いや欠落もあるかもしれません。その点をお含みの上お読みくださり、間違い等があればご指摘いただけると幸いです。