21世紀★万博大学
本文へジャンプ 6月11日 

  
 



第7回講義

「人間再発見・情報に踊らされる人、情報で踊らせる人」

藤本 義一氏

 今回は万博大学で初めての文系の講義。また初めての関西弁の講義。先生は生徒を笑わさねばならないというだけあって、藤本氏はユーモアたっぷり、テンポの速い関西弁で語ってくださった。辛口のお話を、どこまで再現できるか、今回は課題が過大かも?


僕の生き方と情報の取り方
 僕は就職をしたことがない。いまでいうフリーターをずっとやってきたようなものですが、自分で情報源を探っていったらこういう生き方になりました
 戦争が終わったのが12歳の時。商人だった父は45歳ですべてを失い、神経衰弱(いまでいう、うつ病)と結核と拒食症を患って入院しました。母もジープではねられて外科に入院。12歳の僕が入院費をかせがねばならん。ヤミ市からヤミ市へ情報を流すような仕事をやっていました。それである時気づいたんですな。生まれたのは自分の意思じゃないが、生きていくのは自分の意思だと。12歳の時ですよ。
 翌年父は隔離病棟から開放病棟へ移されました。僕はヤミ市で手に入れた毛布と角砂糖を持って病院に行きました。1年半ぶりに会う父になんて言おうか、「お久しぶりです」というのも変だし「お元気ですか」というのも変ですね。ところが父はベッドの上に正座して両手をつき「子不幸ですまん」と言うたんです。親子二人の体重が合わせて64キロ。そんな時代だったから僕は仕方ないと思いましたね。そして、父は僕に大学に行ってくれと言うんです。「頭という金庫の中に学問という財産を入れて、自由に運用していってくれ」というんです。うまいこと言うなと思いました。おまえに渡すものは何もなくなった、つまりもう失うものは何もないから自由にしていいぞということだったんです。
 父は大学を選ぶにあたって3つの条件を示しました。まず、授業料が安いこと、次に先生が多くて生徒が少ないこと、3つめに自転車で通えること。これに合うのは大阪市立大学しかありませんでした。授業料は月400円。国立が月500円でしたから国立より安い学校でした。
 合格を父はとても喜んでくれました。そして今度はなりたい職業を1日で考えてこいと言いました。10代では1日で決められることを20代になると1月かかる。30代なら半年、40代なら1年、50代だと5年かかる。それで困った。経済学部だから社会の教員の資格が取れる。「中学の先生になる」と父に言ったらほめられました。元手がいらんということで。
 ところが僕は卒論に「日本の雇用問題」というテーマをやっていたんですね。日本にあって世界にないものを探った。それで絶望的になった。まず「定年」の問題。そのころは「停年」と書いたんですな。陸軍省で使ってたのを八幡製鉄がまねした。停年55歳。情報は探らないといけません。いつからかと探っていったら戦前でも55歳。大正時代でも55歳。一番古いのが明治34年の文書にあって、やっぱり55歳だった。このときの平均寿命は42.8歳。ということは今の78歳なら停年は96歳くらいじゃなきゃいけない。
 次は「ボーナス」。これは外国から来たものかと思っていたら日本だけのものだったんですね。もともとはギリシア語で、「ボー」は「丸裸の」、「ナス」は「ビーナス」。古代ギリシアで、よく頑張った奴隷にご褒美として酒と肉と裸の美女を与えたことなんです。
 それから「手当」。手当ってどんな意味ですか。傷を手当てすることでしょう。会社が従業員に面倒見てやるぞと脅迫を与えて仕事させてるようなもんです。こんな卒論を60枚書いたら、日本の資本主義に絶望してしまいました。情報分析して、人生は損だと思ったんですね。
 それで、やりたいことをやろうと思ったんです。いちばん好きなのは映画でした。映画の世界に生きようと思ったんです。そのためには文章が書けることを証明しなければならない。それなら懸賞募集に入選するのがいい。大学4年の1年はラジオドラマの懸賞小説を書くのに費やしました。入選するために、世界でまだ書かれていないものを書けばいいと思いました。調べてみると、お腹の赤ちゃんのモノローグはまだ書かれていない。それで「胎児冷笑」を書き、NHKから5万円をもらいました。今のお金で500万です。それから移民船を題材に「つばくろの歌」を書いて20万もらいました。大学を出る前の1年半で今の価値で3000万くらい作ったことになります。忙しかった。でも楽しかった。最高でしたね。若い頃は睡眠時間が3時間しかなくてもがんばれますね。
 情報を集めて、そこから抜けているものを探す。あるいは不思議だなあと思う部分を徹底的に追求する。それを自分のものにすることで、自分から情報発信することができます。そうやって新しい自分の生き方が見つかります。いまの若い人達がやらないのはなぜでしょう。10代にはやりたいことがたくさんあるはずです。それなのに携帯電話で話してる話題はどうでもいいことばっかり。アホか!と言いたくなる。猫犬以下の人間関係やね。電子手帳、あれも馬鹿か!やね。情報過多による情報ロスってやつ。自分を見失っとるね。親も甘いね。何とかなると思っとる。何ともならんぞ。
 僕には懸賞小説でライバルがいました。井上ひさしというやつです。(上智大学、学生)とあるのを見てライバルや思ったね。あとで会ったとき、お互いに相手をでかいやつと思っていたら二人とも細いやつだったけどね。情報を得るにはライバルは作った方がええですよ。同僚はだめだね。同時代の川の中に立つのがライバル、対岸に立つのはライバルでないね。
 映画の世界に入って、はじめは使い走りでした。それでもジャンパーの胸ポケットに箸を2本入れており、食堂で相手のおかずをつまみながら、ゴダールはどうした、ジャンギャバンがこうしたと話をするのが楽しかった。あるとき、壁にピンで留めた紙切れに「意志強く、酒・女を好み云々」という者求むという募集が出ていたんですね。川島雄三監督でした。同僚に「殺されるぞ、やめとけ」と止められたけれども飛び込んでいきました。川島監督は、僕に「プロとアマチュアの違いは何か」と聞きました。僕は「嫌いなことでもするので好きなこともうまくできるのがプロで、嫌いなことをしないので好きなこともうまくできないのがアマチュアです」と答えたら、肩でふっふと笑って「採用」と言ってもらえた。監督が37歳、僕が22歳でした。あるとき監督が背広を脱ぐと背広が棒のようになって、監督はふにゃふにゃとなってしまった。監督は筋萎縮症だったんですな。  
 人生は公式だって考えるといいですね。10年単位で名前を付ける。10年単位で変貌する。僕は20代を「花粉の時代」と名付けました。どこへ行くかわからないから。さらにそれを2年半ずつ四つの季節にわけてみました。春は情報を集め、夏は芽が出て、秋には刈り取り、冬は本にして出版する。30代は鱗の時代。体についている鱗・・・親や女房や地位なんか、を守る時代。40代は苔の時代。50代は器の時代。流れ込んでくるのをまとう。学校を作りました。60代は風の時代。再び花粉を飛ばす時代です。70代は田植えの時代。こういうのを僕は誕生日にウイスキーを1本飲みながら考えます。自分がこうありたいというのが情報の根源です。上の娘にやらせたら、10代はほほえみの時代だと答えた。下の娘は紙風船の時代だと。誰かに息を吹き込んでもらって軽やかに空を飛びたいと。都合のいいこと言うなあと思ったけど、ほんとに娘はそうなっているんですね。
  自分が他と違うことに自信を持たなければいけませんね。考えるのは大脳がやるんですが、右脳から左脳へ通って表現として出てくる。こんなことをやっているのは人間だけなんですね。
 思考能力の薄い人、右脳のない人はだいたいこんな人ですわ。5原則。まず、過去を懐かしむ。人の悪口を言う。愚痴を言う。集団で行動する。パック旅行なんてほんまにあほや。それから苦労したという人。
 親孝行したくないけど親がいて・・・親の苦労は自分で言っちゃったら駄目だね。側面から、おじさんとかに言わせなきゃ。情報は直線的、公的なのは駄目だね。
 人間としての情報発信とは何か、よく考えた方がいいですよ。特にマスコミに行こうとする人は。大きな器の中で、ゆるやかな融合性を持つのがいいね。脳と心は一体だね。右脳が動いているかテストしてみましょう。男という字はどうやってできましたか。誰も考えてないね。だいたいものを考えるときは首が動くもんですな。待つ情報は駄目ですよ。男というのは考えてから行動するという意味の文字なんです。女という字は両手の交差した動きを表しています。
 言葉には3種類あります。
 事実、これは左脳だけ使う言葉。人の顔色が悪いと思ったら「顔色悪いなあ」と事実だけ言う言葉。これは気分悪くなるね。こういう言葉しか言えんやつは哀れんでやった方がいいね。
 虚構、これは右脳も使っている。「俺の顔色どう」と聞いてみる。情報の交換だね。情報が潤沢に広まる。
 、これは相手には何も言わないかわりに、相手のいないところで「あいつはもう駄目だ」なんて言うやつのことだね。
 4つの子どもが「ねえねえねえ、パパとママはどうして結婚したの?」と聞いてきたら、虚構で答えるのがいちばんいいね。「坊やみたいな元気な子がほしかったから」と答えてみなさい。子どもがどんなに喜ぶことやら。「パパがどうしても結婚してくれって言ったから」なんて嘘で答えてはいけないね。深刻は駄目だけど、真剣に話すのがいいね。自分の情報を発することによって、自分が生かされてくる。人間と人間の心が通いあうこと、これが最高の財産ですわ。
 それから次元(禁句)。疲労の言葉は言っちゃいけない。「あー疲れた」「あーしんど」というのは伝染します。「はよ寝ろ」といって寝たあげく翌朝寝過ぎてまた頭がぼけてる。犬が言葉を持ってこう言ったらどうします。「あー暑、暑。たまりませんなあ。」

※事実と虚構の話は「たそがれオヤジ」さんが詳しく書いています

お断り

この講義ノートは私個人のメモと記憶のみに頼って書いていますので、間違いや欠落もあるかもしれません。また、変な関西弁があるかもしれません。その点をお含みの上お読みくださり、間違い等があればご指摘をお願いいたします。