第6回講義
「ナノテク〜技術を越える技術〜」
遠藤 守信氏
カーボンナノチューブの第一人者、信州大学の遠藤教授の講演を抄録する。
20世紀はすばらしい技術進歩の時代でした。「技」という字は手へんに支えると書きます。人を支えるものが技術ですが、その恩恵を通り越して環境問題等が起こっています。21世紀は人のためになる、人に優しい技術の時代にしたいです。その「技術を越える技術」がナノテクです。
「ナノ」とは1mの100万分の1の大きさです。ナノカーボンは炭素原子からできていて、サッカーボール型だったり、かご形だったり、筒型だったりします。素材として代表的なのは、炭素でできた細い筒、カーボンナノチューブです。
NASAにスペースエレベーターという計画があります。大西洋上のいかだから宇宙ステーションへ電力等を供給するためのエレベーターを作ろうという現代版ジャックと豆の木みたいな話ですが、カーボンナノチューブによって実現が可能とされています。できるはずがないと思われるかもしれませんが、ケネディが月へ人間を送ると言ったときもそうでした。できるはずがないと思ったものが10年もたたずに実現しています。また、カーボンナノチューブを使ったピラミッドのような建築物も考えられています。これは高さ3800m。いずれも夢のような話ですが、不可能にチャレンジして新技術を生み出すという思いが大切です。
経済のサイクルと科学技術の関係を、コンドラチェフが指摘しています。新しい科学技術が生まれるとき、経済は大きく発展します。最初は蒸気機関、次は半導体やコンピュータが景気を支えました。今は買いたいと思うような新しいものがありませんから景気の停滞が起こっていますが、やがてナノテクの時代が来ます。
日本では90年代以降空洞化が進み、電機業界でも雇用者数が激減しました。15歳から24歳の若年層では4人に1人が無業者ですが、空洞化で魅力的な職場がないことも原因の一つかもしれません。失業率は4.4%、今後倍増する可能性もあります。世界の電子工場と呼ばれた日本も、部品・製品とも対米輸出に変わって対中輸出が伸び、今や中国がアメリカへ大量の製品を輸出しています。世界に貢献する日本をどう作るかも課題です。
世界初のコンピュータ「エニアック」は18000本の真空管を使い、2tトラックほどの大きさのものでした。スピードも遅かったのですが、それでも大砲の弾が到着する前に大砲の弾の到着地点を計算できたと賞賛されました。技術開発のスピードは加速化しています。5,60年前のエニアックと今のコンピュータを比べると、記憶容量・計算速度で100万倍速く、値段は1000分の1になりました。
しかし、半導体の限界が近づいたとも言われています。半導体の集積度が18ヶ月で2倍になるのをムーアの法則といいますが、2010年が限界といわれています。コストも限界です。シリコン基板は、シリコンインゴットをスライスして作りますが使用するのはわずか4000分の1。超純水も大量に使い、資源とエネルギーの無駄遣いといわれています。
20世紀の技術は限界に来ています。今までの技術の延長では、かつて経験したことのない滝にさしかかっているといっていいでしょう。技術変革、イノベーションが求められています。新しい原材料、ナノマテリアルズ・イノベーションです。
イノベーションという言葉を最初に使った政治家はクリントンでした。彼は、本当の意味でのモノづくりに舵を取り直すことを掲げ、NNIを発表しました。ブッシュはそれを受け、ナノテクは2050年頃には巨大な産業分野になり、1兆ドル規模の市場となるだろうと述べています。経団連は日本のナノテク市場を30兆円と予測しています。
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