「木が多くて森が見えない」という言葉があります。学生に木の名前を挙げさせると5種類がやっと。10種類も言える学生は優秀です。「木はどうやって子供を作るの?」と聞かれたこともあります。森の話は難しいなあと思います。
日本は山と谷、北に流氷、南に珊瑚礁があり、木の種類がたくさんあります。針葉樹ではなく落葉樹の森に流氷が来るのもすごい。日本の森は世界一すごいなと思っています。
僕の住んでいる長野県は78%が木で覆われています。でも原生林は2%以下です。林野庁は「日本に原生林はない。どの森にも人間が入っているから」と言いましたが、ピグミーやインディオは森に入っています。日本でも縄文人が森に入っています。原生林って何といえば、「森の生態が人間によって変えられていない」森です。イメージとしては、大木があり、小さな木もあり、いろんな生き物がいる森です。
生活で見える山の大部分は、二次林、里山です。木が使われて、母樹があるけれどだいたいの木は切り株から出ている。人は落ち葉を利用し、山菜を採っています。日本人は文明人ではいちばん山菜を食べています。
山で濃い緑の帯になっているところ。あれは森じゃねえよ。木の畑。同じ形をした杉の木がたくさん。季節になると花粉をどーんと出す。僕は東京へ行くと花粉症になります。
僕はどう見ても外人だよな。でも僕は「内人」。パスポートも赤いのを持っています。僕は43年前に日本に来ました。動機は空手です。14歳から柔道をやっていて、新渡戸さんの武道の本も持っていました。17歳で北極に行ったとき、柔道の乱取りをする相手がいなくて、一人でやれる格闘技ということで空手を選んだんです。
僕は22歳まで大自然の中にいました。だから街が怖い。人が多すぎる。まっすぐ歩けない。僕はイヌイットといて、人間といえば知ってる人だったけれど、街には人が大勢いて不安です。その人たち全部と友達になれないから。それに街は危ない。熊は遠くから来るのでわかります。犬が吠えて、鉄砲に弾を込めて用意ができます。でも街は車やバスが襲ってきます。美女も多いです。空手の先輩が酒を飲ませます。そして飲ませると飲んじゃう。
そんなとき、山に連れて行かれました。びっくりしました。こんなすごい森がある国だと。ヤマネやイワナがいることに感動しました。ウェールズには国の5%しか森がなく、その森は貴族の猟場で、原生林じゃなかったんです。原生林のかけらのようなものでした。
シャケやマスは貴族の食べ物で、僕たちが食べるのはシャケやマスの缶詰だけ。熊は900年も前に絶滅しました。日本で猪鍋が出たときには涙が出たよ。僕はアングロサクソンじゃなくて、ケルト系日本人だけれど、猪はケルト人の大好物。でも500年前に消えていなくちゃった。
40年前の田舎、きれいだったよ。 コンクリートばっかり張ってないの。いまの日本は平米あたりアメリカの30倍もコンクリート張ってあります。僕はカナダの後エチオピアで仕事をしていましたが、そこには1000mから1500mくらいの崖があって、崖の上と下では森が違いました。上は高山の森、下はジャングル。崖の斜面では農業のために木を切り払っていました。木がなくなると温度が10度も上がって砂漠になりました。ドンパチが始まって私はゲリラと戦いました。30歳のときにやめましたが、カナダには帰りたくありませんでした。わーい、負けたよ〜と言われるのが嫌だったから。それで日本に帰りました。日本で癒してもらったんです。
(注)このあたりのストーリーは財団法人国際科学技術財団 の「やさしい科学技術セミナー」にあるニコル氏の講演「森の曼荼羅」に詳しい。ニコル氏の言葉(長野の言葉だと思う)も忠実に再現されているように思う。
僕は日本が大好きなの。わかる?
水源地の森は切っちゃ駄目なんだよ。黒姫から大木が切り出されているのを見て、僕は腹が立った。日本びいきの一人として。山の奥の奥まで砂防ダムを造るくせに森には金をかけない。そんな愚痴を下手な日本語で言ってたらテレビに出してもらえました。ウイスキーをおいしそうに飲んでお金をもらいました。ハムはケルト人の保存食ですが、ハムを食べてお金をもらいました。ブーツを履いてお金をもらいました。本も売れました。でも、愚痴を言ってお金をもらう自分が信用できなくなっていました。
そんな頃、Walesから不思議な手紙が来ました。Walesに、日本の木を植えた森を作りたいというんです。南Walesの石炭産業が駄目になって失業者があふれたとき、日本の工場ができて助けられたというんです。その日本人たちのために日本の森を作りたいと。アファンの森は、かつて石炭を掘ったボタがあちこちにある、丸裸の場所になっていました。雨が降ると毒が川に流れ、川が死にました。木はほとんどありませんでした。木があるところは教会とかごく小さい沢とかだけでした。ところがWalesへ帰ってみて感動しました。ボタ山から森に復活させていたんです。僕は目の鱗が落ちました。僕が日本でできること、森を作ればいいや、ということでした。
そこで、藪になった森、杉とカラマツの山を長野に買って手入れし始めました。
地元は理解してくれませんでした。ニコルのやつ、長野オリンピック目当てで土地転がしをやるために買うのさと思われたから、値段も高かったです。
藪も必要です。木は細く、蔓がいっぱいで、トゲトゲで、ウグイスが巣を作ります。でも餌がない。藪を、開いた森にしなければなりません。
笹は不思議な植物です。
木を切ると、切って明るくなったっところにわーっと笹が出ます。みなさんのお弁当に緑のplastic 入ってるでしょ。あれは意味ないけど、笹には菌を抑える働きがあります。だから笹が出ると他の植物が出なくなっちゃう。でも、落葉樹は若い切り株から芽が出ます。光の分け前があるように、木を間引いて、残った木を太らせます。だいたい3回笹を刈ると他が安定するといわれています。バランスがとれて安定します。
日本の森は蔓が多いです。藤、アケビ・・・種類も多いです。蔓が混んでいる森では、蔓が木から木へ移り、木を絞め殺します。雪の多いところでは木が折れます。でも蔓は死にません。生態系から見ても林業から見ても、蔓の多い森はよくないんです。蔓を払いたい。それには地元の人の協力が必要です。僕は猟友会に入って一緒に雪の中を走り回りました。最初は誰も僕を信じていませんでした。5年かかりました。友達ができて、松木さんを頼みました。
今回の調査で(手帳を見ながら)、アファンの森で確認した鳥類が66種類、うち長野県のレッドリスト(筆者注:絶滅を危惧される動物)に載っているのが10種類、サンコウチョウの巣も見つかっています。植物は343種類、うちレッドリストは3種類、キノコは301種類。ゆっくり数えれば、鳥は100種、植物は600種、キノコも600種あるでしょう。熊、イタチ、テン、タヌキ、キツネ、リス、ヤマネ、アカネズミ、クマネズミ、ハクビシンもいますし、昆虫も種類が多いです。
アファンの森の目的は、生物の多様性を豊かにすることです。森が原生林の宝庫に戻ることを望んでいます。
大木にはいい遺伝子があります。
大木は一度には死にません。ゆっくり死ぬ、生きながら死んでいるといってもいいです。大木には洞(うろ)ができます。そこにフクロウが巣を作ります。フクロウはアカネズミを捕ります。鳥たちは1年に2度巣作りをし、親の体重の18倍の虫を毎日子供たちに運びます。小鳥は木の皮の中の昆虫を食べます。木の看護になるんです。藪には鳥は住めません。蔓を切って木と木の間を空けると、大きい鳥の飛び道ができます。地面が暖まり、上の方は木の葉っぱから水蒸気が蒸発して涼しいので、森の中には小さな風が起こります。
日本の森はたくましいなあと思います。
汗と愛情をかけたら応えてくれました。僕の母の好きな花はスミレ。Walesでは恥ずかしそうに咲くんです。木の横にちょっぴり。でもアファンの森では(両手を広げて)「スミレ〜」と咲きます。僕はうれしかった。森は毎日違います。楽しいです。熊にも遇いますが楽しいです。
いまからビデオを見ます。あ、君は寝ていていいよ(寝ている学生あり)。
これはMap of
AFAN 。 最初はこんな藪。笹を切る。まだらに光が入る明るい森では、木が生長し、生き物が増えます。これはタマゴタケ。とってもおいしい。これは、いないいないベアー。
森の冬。雪は1m50cmも積もります。これはティッピー、20人くらいはいれるテント。冬でも健康な森には餌があります。残っている実を食べます。
アファンの森のもう一つの大きな目的は教育です。教育を行っています。
木を間引くこと。そのプロセスはずっと続きます。切った木で炭を焼き、木酢液も作っています。
あ、これは僕の本。「森へ行こうよ」「しっぽ」・・・本の印税は森の中に入ってきます。
Walesのアファンの森とは姉妹林になっています。ノウハウと人間を交流しています。
森の中でいちばんいいのは、ぼーっとしていることです。水もおいしいし、whisky の瓶も隠してあります。
僕が最後の給料をもらったのは、カナダの東海岸で環境問題緊急対策官として。30年前のカナダは鉄砲水や地滑りに悩まされていました。円が強くなって日本の会社がカナダの木を切ったんです。カナダの原生林は、屋久島みたいに苔むした大木がたくさんあって、川岸にはハンノキや柳がありました。カナダでは皆が反対しました。でも売ってしまったんです。海まで50km、2000mくらいの山です。雨が多く、冬は雪が積もります。春の雨が降ると雪解け水とでものすごい水量になりますが、6日間で落ち着いていました。でも木を切った後は、2時間で流れるようになってしまったんです。あちこちで鉄砲水です。シャケやイワナの産卵場は50分の1に減ってしまいました。カナダの安い木が手にはいるようになったので、日本の森は高くなって手入れをしなくなりました。
野生のシャケは世界の宝物です。土木の人、よく聞いて。シャケやイワナのための川作りをしてほしいです。もちろん安全第一ですが、コンクリートをべたべた張ったら安定すると思わないで。コンクリートはもろくて、30年で駄目になります。カナダでは、土木のエキスパートと生態系のエキスパートが、大木や岩を使って治水を行っています。ところが、川を治してもシャケは帰ってこない。稚魚を育てて放しても駄目。調べていくと水生昆虫の体を作るタンパク質の6割が海に由来するものだったんです。シャケが森を作る、というのはわかりにくいかもしれません。海を山へ運ぶのはシャケだったんです。アユもそうです。そこでシャケの体を分析して、1個につきシャケ4kg分の成分を入れたペレットを作ってヘリで撒きました。稚魚の生存が高まり、川にシャケが帰ってきました。今年は5000万匹もいるよと、娘のボーイフレンドから報告をもらっています。自然のためにと思って働けば、自然は応えてくれます。
熊がよく見られる時期には、数キロの川に何十匹もの熊がいます。熊は頑固じじいで、他の熊が来るとけんかするのですが、シャケを持っているときはけんかしません。シャケを捕まえた熊は頭のあたりを食べますが、残りは森に隠しておきます。1頭の熊は1年間に700匹のシャケを運びます。
食べ残しのシャケが腐って蛆がわきます。白い粒がいっぱい落ちてるの。そういうとき森へ行くととっても臭ーいの。森で深呼吸、できません。
シャケが森を作ることは、トム・ライムヘンが研究しています。スライド・アイソトープ(安定元素)N15を使って調べます。N15を日本人はたくさん体内に持っています。シャケがたくさん上がったところでは熊がたくさんシャケを散らばらせていますから、木の年輪にも現れます。(筆者注:このあたりは「長良川河口堰建設をやめさせる市民会議」に紹介されているライムヘン教授の講演に詳しく載っています。またアファンの森財団のHPの「C.W.ニコル文集」にも書かれています。)
カナダの建設会社は川の復活に協力的です。我々は生物の多様性豊かな社会を作るべきです。森は自然のサイクルを無視して切っては駄目です。
僕たちは、7歳のトチ・ナラ・ブナの木を植えましたが、大木になるのを見られません。僕は64歳、松木さんは70歳です。でも僕は想像するのが楽しくてしょうがない。人間は記録を取れる生き物です。想像できるのは人間だからです。どんな日本を望んでいますか?どんな日本が欲しいですか?年や金は関係ないです。僕は、平和で戦争しない、食べ物を輸入に頼らない、町に公園がある、川が復活して鳥がいる、いい山がある、そんな日本が欲しいです。
僕は残念です。黒姫の森でテガタチドリとノビネチドリが絶滅しました。フクロウの子供が密猟に遇いました。山菜やエビネも盗まれます。椎茸・ナメコ・ヒラタケは見張っていなければ8割が盗まれます。みんなが、My
town, My countryと思えば、きっとこの国はいい国になるでしょう。この赤鬼が約束します。